遺産分割協議とは
相続人全員で遺産の分け方を決める手続きを分かりやすく解説
家族が亡くなり、相続人と相続財産が分かった後に必要になるのが、
「誰が、どの財産を、どのように相続するか」
を決めることです。
この話し合いを、遺産分割協議といいます。
法務省では、遺産分割について、法律で決められた相続人が全員参加して、相続財産の分け方を決める手続きと説明しています。
例えば、
- 自宅は妻が相続
- 預金は子ども2人で分ける
- 株式は長男が相続
- 長男が家を取得する代わりに次男へ現金を支払う
といった内容を相続人全員で決めます。
最初に結論
遺産分割協議は、次の順番で進めると分かりやすくなります。
- 遺言書を確認する
- 相続人を確定する
- 相続財産と借金を調べる
- 財産一覧を作る
- 相続人全員で分け方を話し合う
- 全員が合意する
- 遺産分割協議書を作る
- 相続人全員が署名・押印する
- 預貯金・不動産・証券などの相続手続きを行う
特に重要なのは、
相続人全員が参加しなければならない
という点です。
一人でも本来の相続人を外して協議すると、後から手続きをやり直すことになる可能性があります。
遺産分割協議はいつ必要なのか
亡くなった人の財産について、法定相続分とは違う分け方をするときに遺産分割協議を行います。
例えば、
父が死亡し、
- 妻
- 長男
- 長女
が相続人だったとします。
遺産が、
- 自宅3,000万円
- 預金2,000万円
だった場合、
「法律上の割合どおりにすべて共有する」
のではなく、
- 自宅は妻
- 預金は長男と長女
などと具体的に決めるのが遺産分割協議です。
遺産分割協議が不要な場合
必ず協議が必要というわけではありません。
1.相続人が一人だけ
相続人が一人なら、分け方を話し合う相手がいません。
2.遺言書で財産の行き先がすべて決まっている
有効な遺言で、
「自宅は妻、預金は長男」
などと指定されていれば、基本的には遺言に従います。
3.法定相続分のまま相続する
財産によっては法定相続分で相続することもできます。
ただし、不動産を共有名義にすると、その後の売却や管理で全員の意思確認が必要になるなど、不便が生じる場合があります。
法務省も、相続発生後に遺産が共有状態のままだと、管理や処分で不便が生じるため、早期に遺産分割を進めることが重要と案内しています。
遺言書を最初に確認する
遺産分割協議を始める前に、必ず遺言書の有無を確認します。
探す場所
- 自宅
- 金庫
- 仏壇
- 書斎
- 貸金庫
- 公証役場
- 法務局
遺言書があるのに、それを無視して協議を始めると手続きが複雑になります。
相続人を確定する
次に、
誰が法定相続人なのか
を戸籍で確認します。
家族の記憶だけで判断してはいけません。
例えば、
- 前婚の子
- 認知した子
- 養子
- 先に亡くなった子の子
- 異父・異母兄弟
などが相続人になる場合があります。
相続人全員が参加する必要がある
遺産分割協議で最も重要なのがこの点です。
法務省は、遺産分割を相続人全員が参加して行う手続きとしています。
したがって、
- 長男だけ
- 同居していた家族だけ
- 仲の良い兄弟だけ
で決めても不十分です。
一人でも抜けるとどうなるのか
例えば、
父には、
- 妻
- 長男
- 長女
- 前妻との子
がいたのに、
前妻との子を除いて話し合った場合です。
この場合、本来の相続人全員が参加していないため、その協議は有効に成立しない可能性があります。
相続手続きの前に相続人調査を行う理由はここにあります。
相続放棄した人はどうなるのか
家庭裁判所で正式に相続放棄が受理された人は、原則として最初から相続人ではなかったものとして扱われます。
そのため、通常は遺産分割協議へ参加しません。
ただし、
「私は何ももらわない」
と家族に伝えただけでは正式な相続放棄ではありません。
相続財産を確定する
相続人が分かったら、次に財産を調べます。
主なプラス財産
- 現金
- 預貯金
- 不動産
- 株式
- 投資信託
- 自動車
- 貴金属
- 暗号資産
主なマイナス財産
- 借金
- ローン
- クレジットカード
- 未払い家賃
- 税金
- 医療費
- 保証債務
財産と借金を確認してから話し合います。
財産一覧表を作る
協議前に一覧表を作ると、話し合いが進めやすくなります。
| 財産 | 内容 | 評価額 |
|---|---|---|
| 自宅 | ○○市○○町 | 2,500万円 |
| 普通預金 | ○○銀行 | 800万円 |
| 定期預金 | △△銀行 | 400万円 |
| 株式 | ○○証券 | 300万円 |
| 自動車 | ○○ | 100万円 |
借金がある場合は別表にします。
法定相続分とは
法律では、相続人の組み合わせごとに基本となる相続割合が決められています。
例えば、
配偶者と子
配偶者:2分の1
子:2分の1を人数で分ける
配偶者と父母
配偶者:3分の2
父母:3分の1
配偶者と兄弟姉妹
配偶者:4分の3
兄弟姉妹:4分の1
ただし、遺産分割協議で相続人全員が合意すれば、必ずしも法定相続分どおりに分ける必要はありません。
遺産分割の主な方法
遺産分割には代表的に4つの方法があります。
1.現物分割
財産をそのまま分ける方法です。
例
- 自宅は妻
- 預金は長男
- 株式は長女
最も分かりやすい方法です。
2.代償分割
一人が財産を取得し、その代わりに他の相続人へ現金などを支払う方法です。
例
自宅3,000万円を長男が取得
↓
長男が長女へ1,500万円支払う
不動産を売却したくない場合などに使われます。
3.換価分割
財産を売却して、代金を分ける方法です。
例
実家を3,000万円で売却
↓
売却費用等を差し引く
↓
相続人で分配
誰も不動産を取得したくない場合などに利用されます。
4.共有分割
一つの財産を複数人で共有する方法です。
例
自宅を、
- 長男2分の1
- 長女2分の1
とする方法です。
簡単に見えますが、将来売却するときなどに全員の合意が必要になることがあり、長期的にはトラブルの原因になる場合があります。
不動産は特に慎重に決める
不動産は預金と違い、簡単に人数で分割できません。
そのため、
- 誰か一人が取得
- 売却して現金分配
- 代償金を払う
- 共有
などを検討します。
遺産分割協議書とは
相続人全員で合意した内容を文書にしたものが、
遺産分割協議書
です。
法務局も、遺産分割協議によって不動産を取得した場合の相続登記について、遺産分割協議書等を用いた手続きを案内しています。
遺産分割協議書を作る理由
主な理由は、
- 合意内容を証明する
- 後から言った・言わないを防ぐ
- 銀行の相続手続き
- 不動産の相続登記
- 証券会社の相続手続き
などです。
遺産分割協議書に書く内容
基本的には、
- 被相続人の氏名
- 死亡日
- 最後の住所
- 相続人
- 誰が何を取得するか
- 作成日
などを記載します。
預金の書き方
例えば、
○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号○○○○
を長男○○が取得する。
といったように、銀行名や支店、口座を特定できるように記載します。
不動産の書き方
不動産は、
- 所在
- 地番
- 地目
- 地積
- 家屋番号
- 種類
- 構造
- 床面積
など、登記事項証明書どおりに記載するのが基本です。
住所表示だけでは不十分な場合があります。
「その他一切の財産」の扱い
協議後に新しい預金などが見つかることがあります。
そのため、
「本協議書に記載のない財産が後日判明した場合は、○○が取得する」
などの条項を入れる場合があります。
ただし、新たに判明した財産の内容や相続人間の意向によっては、改めて協議した方がよい場合もあります。
相続人全員が署名・押印する
遺産分割協議書は、相続人全員が内容を確認します。
実務では、
- 自筆署名
- 実印押印
- 印鑑証明書添付
を求められることが多くあります。
金融機関や登記手続きで必要な方法を確認してください。
遠方の相続人がいる場合
全員が一つの場所へ集まる必要はありません。
例えば、
- 協議内容を電話・オンラインで調整
- 協議書を郵送
- 各相続人が署名・押印
- 返送
という方法もあります。
相続人が海外にいる場合
海外居住者は日本の印鑑証明書を取得できないことがあります。
この場合、
- 署名証明
- 在留証明
などを利用することがあります。
在外公館などへ確認してください。
相続人が未成年の場合
未成年者も相続人になります。
ただし、
親も相続人
+
子も相続人
という場合、親と子の利益が対立する可能性があります。
この場合、家庭裁判所で特別代理人の選任が必要になることがあります。
相続人が認知症の場合
認知症などによって、協議内容を理解して判断する能力がない場合、その相続人を外して協議することはできません。
状況によっては成年後見人などが必要になります。
行方不明の相続人がいる場合
連絡が取れない相続人を無視して進めることはできません。
場合によっては、
- 戸籍附票で住所確認
- 不在者財産管理人
- 失踪宣告
などの家庭裁判所手続きが関係します。
遺産分割協議は多数決ではない
相続人5人のうち4人が賛成しても、
1人が反対している状態では、通常の遺産分割協議は成立しません。
全員の合意が必要です。
そのため、
「多数決で決めればよい」
という考え方は誤りです。
話し合いがまとまらない場合
相続人同士で合意できない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用できます。
裁判所では、遺産分割調停を「遺産の分割について相続人間で話し合う手続き」と案内しています。
遺産分割調停とは
家庭裁判所の調停委員会が中立の立場で、
- 各相続人の希望
- 財産内容
- これまでの経緯
などを聞き、合意できるよう調整します。
裁判所の資料では、調停委員会が当事者から事情や意見を聞き、話し合いによる解決を支援すると説明されています。
調停でも決まらない場合
遺産分割調停で合意できない場合は、原則として審判へ移行します。
審判では家庭裁判所が財産の分け方を判断します。
遺産そのものに争いがある場合
例えば、
「この土地は父の財産ではない」
「長男名義だが実際は父の財産だ」
など、遺産の有無や権利関係自体に争いがある場合があります。
裁判所には、こうした遺産の範囲などを話し合う「遺産に関する紛争調整調停」という手続きもあります。
遺産分割協議に期限はあるのか
「死亡後3か月以内に遺産分割しなければならない」
という一律の期限はありません。
ただし、他の手続きには期限があります。
相続放棄
原則3か月以内
準確定申告
原則4か月以内
相続税
原則10か月以内
そのため、遺産分割協議も早めに進める必要があります。
長期間放置する問題
遺産分割を長期間しないと、
- 相続人がさらに死亡する
- 相続人が増える
- 認知症になる
- 住所が分からなくなる
- 不動産が共有のままになる
など、手続きが複雑になります。
法務省も早期の遺産分割を勧めています。
不動産がある場合は相続登記にも注意
2024年4月1日から、相続登記の申請が義務化されています。
法務局は、相続によって不動産を取得した相続人について、相続登記の手続きを案内しています。
遺産分割協議で不動産を取得する人が決まったら、相続登記まで進めます。
モデルケース
父が亡くなった場合
相続人
- 母
- 長男
- 長女
財産
- 自宅2,400万円
- 預金1,600万円
合計4,000万円
話し合い
母は自宅に住み続けたい。
長男と長女は別居している。
そこで、
- 母:自宅2,400万円
- 長男:預金800万円
- 長女:預金800万円
と全員が合意。
遺産分割協議書
協議書へ、
- 自宅は母が取得
- ○○銀行預金は長男と長女が各800万円取得
と記載。
全員が署名・押印します。
その後、
- 母:相続登記
- 長男・長女:銀行手続き
へ進みます。
借金がある場合
財産分けを始める前に借金を調べます。
例えば、
預金1,000万円
借金2,000万円
だった場合、遺産分割よりも先に相続放棄を検討する必要があります。
相続放棄前に遺産分割協議へ参加しない
相続放棄を検討している人が、
「自分は預金をもらわないから、この家は兄へ」
などと遺産分割に積極的に参加するのは慎重にする必要があります。
まず相続放棄をするか決めてから進めます。
遺産分割協議チェックリスト
協議前
□ 遺言書を確認
□ 相続人を確定
□ 相続放棄者を確認
□ 財産を調査
□ 借金を調査
□ 財産一覧を作成
話し合い
□ 不動産を誰が取得するか
□ 預金をどう分けるか
□ 株式をどうするか
□ 自動車をどうするか
□ 売却する財産
□ 代償金の有無
□ 後から財産が見つかった場合
協議書
□ 被相続人の情報
□ 相続財産を特定
□ 取得者を明記
□ 全員が内容確認
□ 全員が署名
□ 実印押印
□ 印鑑証明書準備
遺産分割協議書の簡単なイメージ
遺産分割協議書
被相続人○○○○(令和○年○月○日死亡)の遺産について、共同相続人全員で協議した結果、次のとおり分割することに合意した。
1.相続人○○○○は、次の不動産を取得する。
【土地】
所在:○○市○○町
地番:○番○
地目:宅地
地積:○○平方メートル
2.相続人○○○○は、○○銀行○○支店普通預金口座○○○○を取得する。
以上の協議成立を証するため、本協議書を作成し、相続人全員が署名押印する。
令和○年○月○日
住所
氏名 実印
住所
氏名 実印
※実際には財産内容や提出先に応じて記載内容を調整します。
よくある質問
法定相続分どおりに分けなければいけませんか
いいえ。
相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる分け方もできます。
長男が全部相続してもよいですか
相続人全員が合意し、他の法律上の問題がなければ、そのような遺産分割をすることもあります。
一人が反対しています
通常の遺産分割協議は成立しません。
家庭裁判所の遺産分割調停を検討します。
電話だけで合意してもよいですか
話し合い自体は可能ですが、後の相続手続きやトラブル防止のため、遺産分割協議書を作成します。
相続人全員が集まらなければいけませんか
同じ場所に集まる必要はありません。
郵送や電話、オンラインで内容を調整することもできます。
遺産分割協議書は自分で作れますか
作成自体は可能です。
ただし、
- 不動産がある
- 相続人が多い
- 代償分割をする
- 海外相続人がいる
- 関係が複雑
などの場合は司法書士や弁護士などへ相談すると安全です。
後から財産が見つかった場合はどうしますか
協議書に後日判明財産の扱いを定めていなければ、その財産について改めて相続人全員で協議することがあります。
借金も遺産分割協議で一人に押し付けられますか
相続人同士で負担者を決めても、債権者との関係では別問題です。
「長男が借金を全部負担する」と家族内で決めたからといって、債権者が他の相続人へ請求できなくなるとは限りません。
借金がある場合は専門家へ確認してください。
弁護士へ相談した方がよいケース
次の場合は、弁護士への相談を検討します。
- 相続人同士で対立している
- 一人が協議を拒否
- 財産隠しを疑っている
- 生前贈与で争いがある
- 遺言書の有効性で争いがある
- 遺産の範囲に争いがある
- 寄与分・特別受益で争っている
司法書士へ相談しやすいケース
- 不動産の相続登記がある
- 戸籍収集が必要
- 法定相続情報一覧図を作りたい
- 遺産分割協議書と登記をまとめて整理したい
などの場合です。
紛争性がある場合は弁護士への相談が適しています。
孤独死の場合の遺産分割協議
一人暮らしの親族が孤独死した場合でも、基本的な流れは同じです。
ただし、
- 相続人が分からない
- 財産が分からない
- 借金がある
- 賃貸住宅の退去を急かされる
などが同時に起こりやすくなります。
そのため、
相続人調査
↓
相続財産調査
↓
相続放棄の判断
↓
遺産分割協議
の順番を守ることが重要です。
遺産分割協議でやってはいけないこと
相続人調査前に話をまとめる
後から別の相続人が判明する可能性があります。
財産調査前に分ける
後から借金や新しい財産が見つかる可能性があります。
多数決で決める
相続人全員の合意が必要です。
一人を無視する
疎遠な相続人であっても外すことはできません。
口約束だけで終える
後の手続きのために協議書を作成します。
まとめ
遺産分割協議とは、
相続人全員で、亡くなった人の財産を誰がどのように取得するか決める話し合い
です。法務省も、法律上の相続人全員が参加して相続財産の分け方を決める手続きとしています。
基本的な流れは、
遺言確認
↓
相続人確定
↓
財産・借金調査
↓
財産一覧作成
↓
相続人全員で協議
↓
全員合意
↓
遺産分割協議書作成
↓
銀行・不動産などの相続手続き
です。
特に重要なのは、
「相続人全員で決めること」
「財産と借金を調べてから話し合うこと」
の2点です。
話し合いでまとまらなければ、家庭裁判所の遺産分割調停を利用できます。調停でも合意できない場合は、原則として審判へ移り、家庭裁判所が分割方法を判断します。
また、不動産がある場合は、遺産分割協議を終えただけで完了ではなく、相続登記まで進める必要があります。現在は相続登記が義務化されているため、放置しないよう注意してください。
注意事項
本記事は、日本国内における一般的な遺産分割協議について整理したものです。
実際の手続きは、
- 遺言書
- 相続人
- 相続放棄
- 未成年者
- 認知症
- 不動産
- 借金
- 生前贈与
- 遺留分
などによって異なります。
相続人同士で争いがある場合は弁護士、不動産登記がある場合は司法書士、相続税が関係する場合は税理士など、内容に応じた専門家へ相談してください。
