相続放棄とは

借金を相続しないための手続きと3か月の期限を分かりやすく解説

家族が亡くなると、預金や不動産などの財産だけでなく、借金や未払い金なども相続の対象になります。

そのため、

「預金より借金の方が多い」

「どれだけ借金があるか分からない」

「孤独死した親族の賃貸住宅や未払い家賃まで自分が負担するのではないか」

といった場合に検討されるのが、相続放棄です。

相続放棄とは、家庭裁判所へ申し立てることで、亡くなった人の財産も借金も原則として引き継がないようにする手続きです。

裁判所では、相続人は「単純承認」「相続放棄」「限定承認」のいずれかを選択でき、相続放棄をする場合は家庭裁判所へ申述する必要があると案内しています。


最初に結論

相続放棄を簡単に言うと、

「亡くなった人の相続人という立場から外れ、財産も借金も原則として受け継がない手続き」

です。

基本的な流れは次のとおりです。

  1. 自分が相続人か確認する
  2. 財産と借金を調べる
  3. 相続放棄するか判断する
  4. 3か月の期限を確認する
  5. 必要書類を集める
  6. 家庭裁判所へ申述する
  7. 裁判所からの照会に回答する
  8. 相続放棄が受理される
  9. 必要に応じて受理証明書を取得する
  10. 債権者や管理会社へ通知する
  11. 次順位の相続人へ知らせる

特に重要なのは、

「相続放棄は家庭裁判所で行う正式な手続き」

という点です。

家族の中で、

「私は何も相続しません」

と言うだけでは、法律上の相続放棄にはなりません。


相続放棄するとどうなるのか

相続放棄が認められると、その人は原則として、

最初から相続人ではなかったもの

として扱われます。

そのため、故人の、

  • 預貯金
  • 不動産
  • 株式
  • 自動車

などのプラス財産を相続しない代わりに、

  • 借金
  • ローン
  • 未払い家賃
  • クレジットカード残高
  • 税金
  • 保証債務

などのマイナス財産も原則として引き継ぎません。


相続放棄と「財産をもらわない」は違う

ここは非常に重要です。

例えば兄弟3人で、

「私は遺産をいらないから、全部兄に渡します」

と話し合っただけでは、家庭裁判所での相続放棄にはなりません。

これは遺産分割協議で取得額を0円にしただけです。

この場合でも、故人の借金について責任が残る可能性があります。

借金からも外れたい場合は、原則として家庭裁判所で正式な相続放棄を行います。


相続放棄を検討する主なケース

1.借金の方が多い

例えば、

預金100万円
借金500万円

なら、単純に相続すると差し引き400万円の負担になる可能性があります。


2.借金額が分からない

最も判断が難しいケースです。

故人が一人暮らしだった場合、

  • 消費者金融
  • カードローン
  • クレジットカード
  • 連帯保証
  • 税金滞納

などを家族が知らないことがあります。


3.事業をしていた

個人事業主や会社経営者では、

  • 金融機関借入
  • 取引先への債務
  • 連帯保証
  • リース
  • 税金

などが残っている可能性があります。


4.賃貸住宅で孤独死した

賃貸住宅で孤独死した場合、

  • 未払い家賃
  • 特殊清掃
  • 原状回復
  • 残置物処理

などの請求が問題になることがあります。

相続人としての責任を引き継がないため、相続放棄を検討することがあります。


5.ほとんど交流のなかった親族が亡くなった

兄弟姉妹や叔父・叔母など、長期間交流していなかった人の相続人になった場合は、財産状況が分からないことがあります。

この場合も慎重に調査します。


相続放棄の期限は3か月

相続放棄で最も重要なのが期限です。

裁判所では、相続放棄の申述は、

「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」

に行う必要があると案内しています。


「死亡日から3か月」ではない場合もある

よく、

「亡くなった日から3か月」

と説明されますが、厳密には違います。

重要なのは、

自分が相続人になったことを知った時

です。


例1 子どもが死亡当日に知った場合

父死亡

長男が当日知った

この場合は、通常その時から3か月が目安になります。


例2 兄弟姉妹が後から相続人になった場合

父死亡

子ども全員が相続放棄

父母も死亡

兄弟姉妹が相続人になる

この場合、兄弟姉妹については、先順位者の放棄などにより自分が相続人になったことを知った時が重要になります。


3か月を過ぎたら絶対に相続放棄できないのか

必ずしもそうとは限りません。

裁判所のQ&Aでは、相続財産が全くないと信じ、そう信じることに相当な理由があった場合などには、後になって相続財産の存在を知った時から3か月以内の申述が受理される場合があるとしています。

ただし、必ず認められるわけではありません。

3か月を過ぎてから借金の督促状が届いた場合などは、早めに弁護士へ相談してください。


3か月で判断できない場合

財産や借金の調査に時間がかかり、3か月以内に判断できない場合があります。

その場合、

相続の承認または放棄の期間の伸長

を家庭裁判所へ申し立てることができます。

裁判所も、3か月以内に財産状況を調査しても判断資料が得られない場合は、期間伸長を申し立てられると案内しています。


期間伸長も期限前に行う

「3か月を過ぎてから延長してもらえばいい」

という考え方は危険です。

判断できないと分かった段階で、早めに家庭裁判所へ相談します。


相続放棄の申述先

相続放棄は、

亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所

へ申し立てます。

自分が住んでいる地域の家庭裁判所ではない場合があります。


父が東京都新宿区に住んで死亡

長男は大阪在住

この場合でも、原則として被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所が申述先になります。


相続放棄に必要な費用

裁判所では、申述人1人につき、

  • 収入印紙800円
  • 連絡用郵便切手

が必要と案内しています。郵便切手の額は家庭裁判所ごとに異なります。

このほか、戸籍や住民票を取得する費用がかかります。


必要書類

申述人と被相続人との関係によって、必要な戸籍が変わります。

基本的には、

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 被相続人の死亡が確認できる戸籍
  • 申述人の戸籍

などが必要になります。

兄弟姉妹や甥・姪など後順位の相続人の場合は、先順位者がいないことを確認するため、より多くの戸籍が必要になります。


子どもが相続放棄する場合

比較的必要書類が少ないケースです。

一般的には、

□ 相続放棄申述書
□ 被相続人の住民票除票・戸籍附票
□ 被相続人の死亡の記載がある戸籍
□ 申述人の戸籍

などを準備します。


兄弟姉妹が相続放棄する場合

兄弟姉妹の場合は、

「子や父母など先順位の相続人がいない」

ことを証明する必要があります。

そのため、被相続人の出生から死亡までの戸籍や、父母の死亡が分かる戸籍などが必要になる場合があります。


甥・姪が相続放棄する場合

さらに、

  • 本来相続人になる兄弟姉妹が死亡していること

を証明する戸籍も必要になります。


第1段階 自分が相続人か確認する

相続放棄をする前に、自分が本当に相続人になっているか確認します。

基本的な相続順位は、

  1. 父母・祖父母
  2. 兄弟姉妹

です。

配偶者は、原則として常に相続人になります。


第2段階 財産と借金を調べる

相続放棄をするかどうか判断するため、

プラス財産とマイナス財産を両方調べます。

プラス財産

  • 預貯金
  • 不動産
  • 株式
  • 自動車
  • 貴金属
  • 暗号資産

マイナス財産

  • 借金
  • クレジットカード
  • ローン
  • 税金
  • 家賃
  • 医療費
  • 保証債務

財産調査中にやってはいけないこと

相続放棄を検討している場合は、故人の財産を処分しないよう注意します。


預金を勝手に使わない

例えば、

  • 自分の生活費に使う
  • 高価な買い物に使う
  • 相続人で分配する

などは避けます。


高価な遺品を売らない

  • 貴金属
  • 時計
  • 株式
  • 暗号資産

などを売却・換金することも慎重にします。


形見分けも慎重に

金銭的価値がある物を、

「形見だから」

と相続人で分けるのも、相続財産の処分と評価される可能性があります。

相続放棄を検討している段階では、保管を優先します。


家賃や借金を故人のお金から払わない

債権者から、

「少しでもいいから払ってください」

と言われる場合があります。

相続放棄を検討しているなら、すぐ支払わず、

「現在、相続放棄を含めて検討しています」

と伝えます。


葬儀費用はどうするのか

葬儀費用については、事情によって判断が異なります。

葬儀費用を故人の財産から支払ったからといって、直ちに必ず相続放棄できなくなるとは限りませんが、個別事情によって問題になる可能性があります。

相続放棄を強く検討している場合は、家族が一時的に立て替え、領収書を保管しておく方法が分かりやすいでしょう。

高額な葬儀費用を故人の預金から支払う前に、専門家へ相談すると安全です。


第3段階 家庭裁判所へ申述する

必要書類がそろったら家庭裁判所へ提出します。

申述書には、

  • 被相続人
  • 申述人
  • 相続開始を知った日
  • 放棄理由

などを記載します。

申述書の書式・記載例は裁判所が公開しています。


第4段階 裁判所から書類が届く

申述後、家庭裁判所から、

  • 照会書
  • 回答書

などが届く場合があります。

そこでは、

  • 本当に自分の意思で放棄するのか
  • 相続開始を知った日はいつか
  • 財産を処分していないか

などを確認されることがあります。

内容を正確に記載して返送します。


第5段階 相続放棄が受理される

家庭裁判所が相続放棄の申述を受理すると、手続きは大きく前進します。

必要に応じて、

相続放棄申述受理証明書

を取得できます。

債権者から請求された場合などに使用します。


債権者から請求された場合

例えば、消費者金融から、

「故人の借金を払ってください」

と連絡が来た場合です。

相続放棄が受理された後なら、

「家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されています」

と伝えます。

裁判所も、債権者から請求を受けている場合には、相続放棄が受理されたことを連絡するとよいと案内しています。


債権者への文例

「○○○○の相続について、○○家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、受理されています。今後の手続きについては、相続放棄申述受理証明書等が必要であれば、書面でご案内ください。」


まだ相続放棄前の場合の文例

「現在、相続財産および債務を調査しており、相続放棄を含めて検討しています。現時点で債務を承認したり、私個人が支払うことを約束するものではありません。請求内容と根拠資料を書面でお送りください。」


相続放棄すると次の相続人へ移る

相続放棄で非常に重要なのがこれです。

自分が相続放棄すると、次順位の人が相続人になることがあります。


父死亡

子ども全員が相続放棄

父母が相続人

父母もすでに死亡

兄弟姉妹が相続人

という流れです。

そのため、自分だけ相続放棄して終わりではありません。


次順位の親族へ知らせる

法律上、必ずしも本人が次順位者へ通知する義務があるとは限りませんが、実務上は、

「私たちが相続放棄したため、あなたが相続人になる可能性があります」

と知らせておくと、突然督促状が届くトラブルを減らせます。


通知文例

「○○が亡くなり、私たちは家庭裁判所で相続放棄の手続きを行いました。その結果、あなたが次順位の相続人になる可能性があります。故人には債務がある可能性がありますので、家庭裁判所や専門家へ早めに確認してください。」


全員が相続放棄したらどうなるのか

相続人全員が相続放棄すると、

「誰も相続人がいない」

状態になることがあります。

この場合、必要に応じて家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、債権者への弁済などを行う仕組みがあります。

自動的に相続財産がすぐ国のものになるわけではありません。


相続放棄後も部屋を片付けてよいか

賃貸住宅で孤独死したケースでは、

「相続放棄したから部屋を片付けてください」

と管理会社から求められる場合があります。

しかし、相続放棄後に故人の家財を勝手に売却・処分することは慎重に考える必要があります。

裁判所も、相続放棄後に亡くなった人の財産を管理している場合は、相続人へ引き継ぐことになると案内しています。

次の相続人がいる場合は、その人や管理会社、必要に応じて専門家と調整します。


特殊清掃はどうするのか

孤独死の場合、腐敗や臭いなどから緊急の特殊清掃が必要になることがあります。

しかし、

緊急的な衛生処置

と、

家財の売却・大量処分

は分けて考える必要があります。

相続放棄を予定している場合は、業者へ、

「相続放棄を検討しているため、家財を勝手に処分しないでください」

と伝えておくと安全です。


連帯保証人の場合は別問題

ここも非常に重要です。

例えば、父が借りているアパートについて、娘が連帯保証人だったとします。

父が死亡し、娘が相続放棄しても、

娘自身が署名した連帯保証契約の責任まで当然に消えるわけではありません。

相続人としての責任と、自分自身の契約上の責任は別です。


相続放棄と限定承認の違い

相続放棄

財産も借金も原則として引き継ぎません。

限定承認

相続によって得た財産の範囲内で、故人の借金を負担する方法です。

裁判所も、この2つを別の選択肢として案内しています。

限定承認は手続きが複雑で、原則として共同相続人全員で行う必要があります。

財産と借金のどちらが多いか分からない場合などに検討されます。


単純承認とは

通常の相続です。

預金・不動産だけでなく、借金も含めて引き継ぎます。

何も手続きをせず、3か月を過ぎると単純承認となる可能性があるため注意します。


相続放棄を検討するときの順番

1.死亡日を確認

2.自分が相続人になった日を確認

3.3か月の期限を記録

4.戸籍を集める

5.プラス財産を調べる

6.借金を調べる

7.財産を処分しない

8.判断できなければ期間伸長

9.家庭裁判所へ申述

この順番を意識します。


相続放棄チェックリスト

期限

□ 相続開始を知った日を確認
□ 3か月の期限を計算
□ カレンダーへ記録
□ 間に合わない場合は期間伸長を検討

財産調査

□ 預貯金
□ 不動産
□ 株式
□ 自動車
□ 保険
□ 暗号資産

借金調査

□ 住宅ローン
□ カードローン
□ 消費者金融
□ クレジットカード
□ 税金
□ 家賃
□ 医療費
□ 保証債務

裁判所

□ 管轄家庭裁判所を確認
□ 申述書
□ 戸籍
□ 住民票除票等
□ 収入印紙
□ 郵便切手

受理後

□ 受理通知を保管
□ 必要なら受理証明書取得
□ 債権者へ通知
□ 管理会社へ通知
□ 次順位者へ連絡


よくある質問

借金が少しでもあれば相続放棄した方がよいですか

必ずしもそうではありません。

預金や不動産などプラス財産の方が多い場合もあります。

まず財産全体を調べます。


相続放棄すれば生命保険金も受け取れませんか

死亡保険金が受取人固有の財産として扱われる契約であれば、相続放棄をしても受け取れる場合があります。

保険契約を確認してください。


未支給年金は受け取れますか

未支給年金は、一定の遺族に認められた固有の請求権として扱われ、通常の相続財産とは性質が異なります。

相続放棄をした場合でも請求できることがあります。


葬儀をしたら相続放棄できませんか

葬儀を行っただけで直ちに相続放棄できなくなるとは限りません。

ただし、故人の財産をどのように使用したかによって問題が生じる可能性があります。


故人の家財を捨てたらどうなりますか

財産価値のある物を処分した場合、相続財産を処分したと評価される可能性があります。

相続放棄を検討しているなら、処分前に専門家へ相談してください。


3か月を過ぎてから借金が見つかりました

事情によっては相続放棄が受理される可能性があります。

裁判所も、相続財産がないと信じたことに相当な理由があった場合などには例外的な取扱いがあり得ると案内しています。

督促状などを捨てず、早めに弁護士へ相談してください。


相続放棄は自分でできますか

可能です。

裁判所は申述書式や記載例を公開しています。

ただし、

  • 3か月を過ぎている
  • 借金額が大きい
  • 財産をすでに処分した
  • 兄弟姉妹相続
  • 甥・姪相続
  • 連帯保証がある

場合は、専門家へ相談した方が安全です。


弁護士へ相談した方がよいケース

次の場合は、早めに弁護士へ相談します。

  • 3か月が迫っている
  • 3か月を過ぎている
  • 高額な借金がある
  • 借金の総額が分からない
  • 連帯保証債務がある
  • 財産をすでに売却した
  • 故人の預金を使用した
  • 債権者から訴えられた
  • 管理会社から高額請求を受けた
  • 相続人間で争いがある

孤独死の場合の注意点

孤独死では、

  • 警察対応
  • 特殊清掃
  • 賃貸住宅
  • 家財処分
  • 借金調査

が同時に発生することがあります。

そのため、

「早く部屋を空にしなければ」

と焦って家財を全部捨てないことが重要です。

まず、

相続人確認

財産・借金調査

相続放棄判断

家財の処理

という順番を意識してください。


まとめ

相続放棄とは、

亡くなった人の財産も借金も原則として受け継がないため、家庭裁判所へ申し立てる手続き

です。

基本的な流れは、

相続人確認

財産調査

借金調査

3か月の期限確認

家庭裁判所へ申述

受理

債権者等へ通知

です。

裁判所によると、申述は原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。判断材料がそろわない場合は、期間伸長を申し立てることもできます。

そして最も注意したいのは、

相続放棄を検討している間に故人の財産を勝手に処分しないこと

です。

預金を使う、車を売る、貴金属を分ける、家財を大量に処分するなどは、後の判断に影響する可能性があります。

借金の可能性があると分かった時点で、3か月という期限を意識し、早めに財産調査を始めることが重要です。


注意事項

本記事は、日本国内の一般的な相続放棄制度について整理したものです。

実際に相続放棄が受理されるかどうかは、

  • 相続開始を知った時期
  • 財産を処分したか
  • 3か月を経過した理由
  • 家族関係
  • 相続財産の状況

などによって異なります。

特に3か月を過ぎている場合、故人の財産をすでに処分している場合、高額な借金・保証債務がある場合は、弁護士などの専門家へ早めに相談してください。

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