身内が孤独死し、借金がある場合の対応
相続放棄を検討するときの手続きと注意点を順番に解説
身内が賃貸住宅で孤独死し、部屋から借金の督促状や未払いの請求書が見つかった場合、急いで遺品整理や支払いを始めてはいけません。
故人の借金は、死亡しただけで消えるわけではありません。
相続すると、預貯金や現金などの財産だけでなく、借金、未払い家賃、クレジットカード代などの負債も引き継ぐ可能性があります。
一方、家庭裁判所で相続放棄の手続きを行い、受理されれば、原則として故人の財産と借金の両方を引き継がないことになります。相続放棄は、単に債権者や管理会社へ「相続しません」と伝えるだけでは成立せず、家庭裁判所への申述が必要です。
この記事では、地方在住の親族が、東京都内の賃貸住宅で孤独死した身内の借金を知り、相続放棄を検討するケースを想定して、対応の順序を分かりやすく説明します。
想定するモデルケース
亡くなった人
- 78歳の男性
- 東京都内の賃貸アパートで一人暮らし
- 配偶者はすでに死亡
- 年金で生活していた
- 室内で死亡し、数日後に発見された
- 預金額は不明
- 家賃を滞納している可能性がある
- クレジットカード会社から督促状が届いている
- 消費者金融の書類も見つかった
- 特殊清掃と原状回復が必要になる可能性がある
対応する親族
- 故人の長女
- 地方都市に在住
- 自分が相続人だと思っている
- 東京へ何度も行くことは難しい
- 孫が電話や書類整理を手伝う
- 借金の総額が分からないため、相続放棄を検討している
最初に結論
借金がある可能性があり、相続放棄を検討している場合は、次の順序で進めます。
- 相続放棄の期限を確認する
- 故人の財産を使ったり処分したりしない
- 管理会社や債権者へ支払いを約束しない
- 相続人を戸籍で確認する
- 財産と借金を調査する
- 3か月以内に判断できなければ期間伸長を検討する
- 家庭裁判所へ相続放棄を申し立てる
- 裁判所からの照会に回答する
- 受理後に管理会社や債権者へ通知する
- 次に相続人となる可能性がある親族へ知らせる
特に重要なのは、相続放棄を検討している間に、故人の財産を勝手に使わないことです。
第1段階 相続放棄の期限を確認する
相続放棄には期限があります。
原則として、相続人が「自分のために相続が始まったことを知ったとき」から3か月以内に、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述します。
3か月の起算点
一般的には、次の両方を知った時点が重要になります。
- 故人が死亡したこと
- 自分が相続人になったこと
単純に死亡日から必ず3か月と決まるわけではありませんが、判断を遅らせるのは危険です。
死亡の連絡を受けた日を記録し、その日から3か月後の日付をカレンダーへ書いてください。
記録しておくこと
- 故人の死亡日
- 死亡を知った日
- 自分が相続人であると知った日
- 警察や親族から連絡を受けた日
- 借金の存在を知った日
- 相続放棄の期限として考えられる日
期限が不明な場合は、早い日を基準に行動する方が安全です。
第2段階 すぐにしてはいけないこと
相続放棄を検討している場合、故人の財産に手を付ける行為には注意が必要です。
相続財産を売却、消費、分配するなどの行為は、相続を承認したと評価される問題につながる可能性があります。
ただし、どの行為が問題になるかは、財産の種類、金額、目的、緊急性などによって判断が異なります。
避けるべき行為
- 故人の預金を引き出して自分で使う
- 故人のキャッシュカードで支払いをする
- 家具や家電を売る
- 貴金属や現金を形見として分ける
- 自動車を売却する
- 株式や投資信託を解約する
- 故人の借金を故人の預金から一部だけ返す
- 高価な遺品を親族が持ち帰る
- 故人名義の財産を自分名義へ変更する
- 遺産分割協議をする
- 故人の財産から親族の交通費を支払う
特に危険な行動
管理会社から、
「預金があるなら、そこから家賃を払ってください」
と言われても、その場で故人の預金を使わないでください。
債権者から、
「少額でよいので、まず1万円だけ払ってください」
と言われても、相続放棄を検討中であることを伝え、すぐには支払わないようにします。
第3段階 部屋の物を勝手に捨てない
故人の部屋に残された家具、家電、現金、書類などは、相続財産に当たる可能性があります。
賃借人が死亡すると、賃借権と室内の残置物の所有権が相続の対象となるため、管理会社や大家が当然に自由処分できるわけではありません。国は、単身入居者の死亡後に賃貸借契約の解除や残置物処理を円滑にするためのモデル契約条項を用意していますが、これは生前に契約されている場合の仕組みです。
管理会社へ伝える内容
相続放棄を検討している場合は、次のように伝えます。
「現在、故人の財産と債務を調査しており、相続放棄を含めて検討しています。相続関係が確定するまで、室内の家財や書類を無断で廃棄しないようお願いします。賃貸借契約書、家賃の支払状況、保証会社、保険、特殊清掃費、原状回復費に関する資料を書面で送ってください。」
管理会社に確認すること
- 賃貸借契約書
- 家賃の滞納額
- 契約終了予定日
- 保証会社の有無
- 連帯保証人の有無
- 敷金の額
- 火災保険の加入状況
- 孤独死に関する保険の有無
- 特殊清掃の実施状況
- 誰が特殊清掃を依頼したか
- 原状回復費用の見積り
- 残置物処理契約の有無
- 死後事務委任契約の有無
第4段階 部屋へ入る場合は「調査と保全」にとどめる
相続放棄を検討していても、借金や重要書類を調べるために室内を確認する必要が生じる場合があります。
ただし、部屋へ入ること自体と、財産を自由に処分することは別です。
室内へ入る場合は、警察の確認が終了していること、管理会社の立入り許可があることを確認し、できるだけ管理会社や親族に立ち会ってもらいます。
入室時に行うこと
- 玄関から室内全体を動画で撮影する
- 各部屋の状況を写真に残す
- 現金や貴重品の場所を記録する
- 督促状や請求書を探す
- 通帳や契約書を確認する
- 賃貸借契約書を探す
- 保険証券を探す
- 遺言書を探す
- スマートフォンやパソコンを保全する
- 持ち出した物を一覧にする
持ち出して保管する場合
盗難や紛失を防ぐため、現金、通帳、印鑑、貴金属、契約書などを保全する必要がある場合は、勝手に使用せず、次の記録を残します。
- 品名
- 数量
- 発見場所
- 写真
- 持ち出した日
- 持ち出した人
- 保管場所
相続放棄を予定している場合、どこまでの行為が許容されるかは個別事情によって異なるため、高価な財産や大量の家財を動かす前に弁護士へ確認するのが安全です。
第5段階 借金を調べる
相続放棄をするか判断するには、故人の財産だけでなく借金も調べます。
確認する借金や未払い金
- 銀行からの借入れ
- 消費者金融からの借入れ
- クレジットカードの利用残高
- キャッシング
- リボ払い
- 家賃滞納
- 医療費
- 入院費
- 介護施設利用料
- 税金
- 国民健康保険料
- 介護保険料
- 電気料金
- ガス料金
- 水道料金
- 携帯電話料金
- インターネット料金
- 通販の後払い
- 個人間の借金
- 連帯保証債務
- 特殊清掃費
- 原状回復費
- 残置物撤去費
部屋で探す書類
- 督促状
- 催告書
- 請求書
- 裁判所からの郵便
- 消費者金融のカード
- クレジットカード
- ローン契約書
- 返済予定表
- 銀行通帳
- ATM利用明細
- 税務署や自治体からの通知
- 家賃保証会社からの通知
- 携帯電話会社からの請求
- 病院や介護事業者からの請求
郵便物は捨てない
借金の調査では、郵便物が重要な手掛かりになります。
封筒の送付元ごとに分類し、届いた日付と請求額を一覧にします。
第6段階 プラスの財産も調べる
借金が見つかったからといって、すぐに相続放棄を決めるとは限りません。
故人に借金を上回る財産がある可能性もあります。
確認する財産
- 預貯金
- 現金
- 株式
- 投資信託
- 国債
- 生命保険
- 不動産
- 自動車
- 貴金属
- 骨董品
- 貸付金
- 敷金返還請求権
- 未払い給与
- 税金の還付金
- 未支給年金
- デジタル資産
財産と借金の一覧表
| 種類 | 名称・相手先 | 残高・金額 | 確認状況 |
|---|---|---|---|
| 預金 | ○○銀行 | 約30万円 | 通帳で確認 |
| 借金 | ○○カード | 約45万円 | 督促状あり |
| 借金 | 消費者金融 | 不明 | カードあり |
| 未払い家賃 | 管理会社 | 約20万円 | 回答待ち |
| 敷金 | 管理会社 | 10万円 | 契約書で確認 |
| 原状回復費 | 管理会社 | 不明 | 見積り待ち |
不明な項目は「0円」とせず、「不明」「調査中」と記入します。
第7段階 債権者へすぐに返済しない
借金の督促状を見つけても、相続放棄を検討している間は、すぐに返済を始めないようにします。
債権者へ伝える文例
「債務者が死亡し、現在、相続人と相続財産を調査しています。相続放棄を含めて検討中のため、現時点では債務の承認や支払いをすることができません。今後の連絡は書面でお願いします。」
電話で聞かれても答えない方がよい内容
- 「私が払います」
- 「借金を引き継ぎます」
- 「毎月分割で払います」
- 「故人の預金から返します」
- 「少額なら払えます」
- 「相続人は私だけです」
相続人が誰かは戸籍を確認しなければ確定できない場合があります。
第8段階 葬儀費用の扱いに注意する
相続放棄を検討していても、遺体の引取りや火葬は必要になります。
ただし、葬儀費用を故人の預金から支払ってよいかは、一律には判断できません。
葬儀の規模、金額、故人の財産状況、支出目的などによって評価が異なる可能性があります。
安全性を高める方法
- 葬儀は必要最小限の内容にする
- 親族が自分のお金で一時的に支払う
- 領収書をすべて保管する
- 故人の預金を無断で引き出さない
- 葬儀費用と遺産を混同しない
- 高額な葬儀契約を避ける
- 不安がある場合は事前に弁護士へ相談する
親族が立て替えたからといって、必ず故人の財産から返してもらえるとは限りません。
第9段階 相続人を戸籍で確認する
相続放棄は、相続人本人が行います。
誰が相続人になるかは、家族の記憶だけでなく戸籍で確認します。
一般的な相続順位
配偶者は、原則として常に相続人になります。
配偶者以外は、次の順位で相続人になります。
- 子やその代襲者
- 父母や祖父母などの直系尊属
- 兄弟姉妹や甥・姪などの代襲者
先順位の相続人がいる間は、後順位の人は通常、相続人になりません。
モデルケースの場合
故人には配偶者がおらず、長女が1人いるため、原則として長女が第一順位の相続人です。
ただし、故人に前婚の子、認知した子、養子がいる可能性もあるため、戸籍確認が必要です。
第10段階 3か月以内に判断できない場合
故人の借金が多方面にあり、3か月以内に財産調査が終わらない場合があります。
その場合、何もしないまま期限を過ぎるのではなく、家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てる方法があります。
家庭裁判所は、3か月の熟慮期間内に調査しても判断できない場合、申立てにより期間を伸ばすことがあります。
期間伸長を検討する例
- 借入先が多数ある
- 故人の通帳が見つからない
- 不動産の有無が不明
- 保証債務がある可能性がある
- 海外資産がある
- 親族関係が複雑
- 戸籍の収集に時間がかかる
- 管理会社から原状回復費の回答が来ない
- 事故や孤独死に関する損害賠償請求の有無が分からない
期間伸長の申立ても、原則として3か月の熟慮期間内に行う必要があります。
第11段階 相続放棄の申述先を確認する
相続放棄は、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。
モデルケースの場合
故人の最後の住所地が東京都内であれば、その住所を管轄する東京家庭裁判所または支部・出張所が申述先になります。
申述人が地方に住んでいても、申述人の住所地の家庭裁判所ではなく、原則として故人の最後の住所地が基準です。
書類は郵送で提出できる場合がありますが、必要書類、郵便切手、送付方法については管轄家庭裁判所へ確認してください。
第12段階 相続放棄に必要な書類を集める
相続放棄の申述では、申述人の立場によって必要な戸籍が異なります。
裁判所が案内する共通の書類には、次のものがあります。
- 相続放棄申述書
- 故人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する人の戸籍謄本
- 故人の死亡が記載された戸籍
- 申述人と故人の関係を証明する戸籍
- 収入印紙
- 連絡用の郵便切手
裁判所が公表している申述費用は、申述人1人につき収入印紙800円分と、裁判所ごとに定められた連絡用郵便料です。必要な戸籍は、配偶者、子、父母、兄弟姉妹など、相続順位によって異なります。
長女が相続放棄する場合の基本書類
モデルケースの長女が故人の子として申し立てる場合は、一般的に次の書類を準備します。
- 相続放棄申述書
- 故人の住民票除票または戸籍附票
- 故人の死亡が記載された戸籍謄本
- 長女本人の戸籍謄本
- 収入印紙800円分
- 裁判所指定の郵便切手
不足する戸籍を申述前に取得できない場合、裁判所の案内上、申述後の追加提出が認められることもあります。
第13段階 相続放棄申述書を提出する
裁判所のウェブサイトには、成人用の相続放棄申述書と記入例が用意されています。
申述書で記入する主な内容
- 申述人の氏名
- 申述人の住所
- 故人との関係
- 故人の氏名
- 故人の最後の住所
- 故人の本籍
- 故人の死亡日
- 相続開始を知った日
- 放棄の理由
- 相続財産の概略
放棄理由の例
「被相続人には預貯金がほとんどなく、消費者金融、クレジットカード、未払い家賃等の債務があることが判明したため。」
借金額が確定していない場合は、分かっている範囲を記載し、調査中であることを示します。
第14段階 裁判所からの照会書に回答する
申述書を提出すると、家庭裁判所から照会書や回答書が届くことがあります。
裁判所は、本人の意思で相続放棄をしているか、期限内の申述か、すでに相続財産を処分していないかなどを確認します。
質問される可能性がある内容
- 故人の死亡を知った日
- 自分が相続人と知った日
- 相続放棄をする理由
- 財産や借金の内容
- 故人の財産を処分したか
- 預金を引き出したか
- 遺品を売却したか
- 自分の意思で申し立てたか
裁判所から照会や呼出しがあった場合は、必ず期限内に対応します。
分からないことを推測で書かず、「不明」「調査中」と正確に記載します。
第15段階 相続放棄の受理を確認する
家庭裁判所が相続放棄の申述を受理すると、受理されたことを示す通知が届きます。
必要に応じて、相続放棄申述受理証明書を取得します。
証明書を求められる可能性がある相手
- 銀行
- 消費者金融
- クレジットカード会社
- 管理会社
- 大家
- 家賃保証会社
- 税務署や自治体
- 病院
- 介護施設
- 次順位の相続人
原本を提出する前にコピーを取っておきます。
第16段階 債権者へ相続放棄を通知する
相続放棄が受理されたら、請求してきた債権者へ書面で通知します。
通知文例
「被相続人○○○○の相続について、○年○月○日付で○○家庭裁判所において相続放棄の申述が受理されました。今後、私個人に対する請求には応じられません。必要がある場合は、相続放棄申述受理証明書の写しを送付します。」
同封するもの
- 相続放棄申述受理通知書の写し
- 相続放棄申述受理証明書の写し
- 相手方から届いた請求書のコピー
- 自分の連絡先
送った書類のコピーと送付記録を保管します。
第17段階 管理会社へ通知する
相続放棄が受理された場合、管理会社にも通知します。
管理会社への通知文例
「故人○○○○の相続について、○年○月○日付で相続放棄の申述が受理されました。私は初めから相続人ではなかったものとして扱われるため、賃貸借契約の解約、残置物の処分、家賃、特殊清掃費、原状回復費等について、相続人としての判断や支払いを行うことはできません。今後の手続きについては、ほかの相続人または必要な法的手続きにより対応してください。」
ただし、本人が賃貸借契約の連帯保証人になっている場合は、相続人としての責任と連帯保証人としての責任が別に問題となります。
相続放棄をしただけで、本人が生前に契約した連帯保証債務まで当然になくなるとは限りません。
第18段階 相続放棄後は部屋を勝手に解約しない
相続放棄が受理されると、その人は原則として最初から相続人ではなかったものとして扱われます。
そのため、相続人の立場で賃貸借契約を解約したり、部屋の家財を自由に処分したりすることはできません。
賃借人の死亡後に相続人がいない、または全員が相続放棄した場合、貸主側が相続財産清算人の選任などを検討し、契約解除や残置物処理を進める場合があります。
相続放棄後に避ける行為
- 自分の判断で退去届を書く
- 自分の判断で鍵を返す
- 家具や家電を処分する
- 遺品整理業者と処分契約を結ぶ
- 貴重品を形見分けする
- 敷金を受け取る
- 部屋を明け渡す合意書へ署名する
管理会社から対応を求められた場合は、相続放棄済みであることを伝え、弁護士へ相談します。
第19段階 次順位の相続人へ知らせる
第一順位の相続人である子が相続放棄すると、故人の父母や祖父母が存命であれば、次に相続人となる可能性があります。
父母や祖父母が死亡している場合は、故人の兄弟姉妹、兄弟姉妹が死亡している場合は甥や姪が相続人となる可能性があります。
伝える内容
- 故人が死亡したこと
- 自分が相続放棄したこと
- 借金がある可能性
- 家賃滞納がある可能性
- 管轄家庭裁判所
- 自分の受理日
- 相続放棄には期限があること
- 必要に応じて専門家へ相談すべきこと
親族への連絡文例
「○○が亡くなり、借金や未払い家賃がある可能性が判明しました。私は家庭裁判所で相続放棄を行い、○月○日に受理されました。その結果、次の順位の親族が相続人になる可能性があります。相続放棄には原則として、自分が相続人になったことを知ってから3か月以内という期限があります。早めに弁護士、司法書士または家庭裁判所へ確認してください。」
第20段階 親族全員が放棄した場合
子、父母、兄弟姉妹など、相続人となる人が全員相続放棄した場合でも、故人の部屋や財産が自動的に消えるわけではありません。
預金、残置物、賃貸借契約、未払い家賃などを処理する必要が残る場合があります。
このような場合、利害関係人が家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立て、その清算人が財産や債務の処理を行うことがあります。
遺族が当然に申立てをしなければならないとは限りませんが、管理会社や債権者から対応を求められた場合は、弁護士へ相談してください。
相続放棄をしても消えない可能性がある責任
相続放棄をすれば、すべての請求が必ずなくなるとは限りません。
相続とは別の理由で、本人が責任を負っている場合があるからです。
連帯保証人になっている場合
故人の賃貸借契約について、自分自身が連帯保証人として署名している場合、相続放棄とは別に保証契約上の責任が問題になります。
確認するものは次のとおりです。
- 賃貸借契約書
- 連帯保証契約書
- 更新契約書
- 保証の上限額
- 保証会社の契約
- 自分の署名と押印
- 緊急連絡先との区別
緊急連絡先として登録されているだけなら、通常、連帯保証人と同じ責任ではありません。
管理会社から請求されたら、契約書の写しと請求根拠を求めます。
特殊清掃費や原状回復費を請求された場合
相続放棄を検討している間に、管理会社から高額な費用を請求されることがあります。
すぐに支払わず確認する資料
- 賃貸借契約書
- 特殊清掃の見積書
- 特殊清掃の請求書
- 作業前後の写真
- 原状回復工事の見積書
- 工事項目別の金額
- 保険による補償額
- 敷金精算書
- 家賃滞納額
- 保証会社の支払状況
- 請求の法的根拠
返答文例
「現在、相続放棄を含めて検討しているため、支払いを確約することはできません。賃貸借契約書、費用明細、室内写真、見積書、保険金の支払状況、請求の根拠となる契約条項を書面で送付してください。」
相続放棄の手続きチェックリスト
最初の1週間
□ 死亡を知った日を記録する
□ 相続放棄の期限をカレンダーに記入する
□ 故人の預金を使わない
□ 遺品を売却しない
□ 管理会社へ検討中と伝える
□ 督促状と請求書を保管する
□ 戸籍の取得を始める
□ 財産と借金の一覧を作る
1か月以内を目安に行うこと
□ 預貯金を確認する
□ 借金を調べる
□ 家賃滞納額を確認する
□ 特殊清掃費を確認する
□ 原状回復費を確認する
□ 保証会社を確認する
□ 連帯保証人を確認する
□ 生命保険を確認する
□ 不動産の有無を確認する
□ 弁護士または司法書士へ相談する
3か月以内
□ 相続するか放棄するか決める
□ 判断できなければ期間伸長を申し立てる
□ 相続放棄申述書を提出する
□ 裁判所からの照会へ回答する
相続放棄受理後
□ 受理通知書を保管する
□ 必要に応じて受理証明書を取得する
□ 債権者へ通知する
□ 管理会社へ通知する
□ 次順位の親族へ知らせる
□ 遺品を勝手に処分しない
□ 請求が続く場合は専門家へ相談する
よくある質問
故人の部屋へ入ったら相続放棄できなくなりますか
部屋へ入ったことだけで、直ちに相続放棄できなくなるとは限りません。
ただし、室内の財産を売却、消費、分配した場合は問題になる可能性があります。
調査や保全のために入室する場合は、写真、動画、持出品一覧を作り、財産を自分のために使わないようにします。
故人の預金から葬儀代を払ってもよいですか
一律には判断できません。
葬儀の内容、金額、故人の財産状況などによって評価が異なる可能性があります。
相続放棄を予定している場合は、故人の口座から無断で引き出さず、親族が立て替え、領収書を保管する方法が比較的安全です。
少額の借金なら払ってもよいですか
相続放棄を検討している間は、少額であっても故人の財産から返済することは避けます。
親族個人の財産から支払う場合も、債務を引き受けたと受け取られないよう、事前に専門家へ確認してください。
相続放棄をすれば部屋を片付けなくてよいですか
相続放棄後は、原則として相続人として家財を処分する権限を持ちません。
管理会社から片付けを求められても、独断で処分契約を結ばず、相続放棄済みであることを伝えます。
相続放棄をすれば連帯保証人の責任もなくなりますか
必ずしもなくなりません。
自分自身が連帯保証人として契約している場合、その保証責任は相続とは別に判断されます。
相続放棄したことを親族へ伝える義務はありますか
一般に、家庭裁判所が次順位の親族へ自動的に詳しく知らせてくれるとは限りません。
次に相続人となる可能性がある親族が期限を逃さないよう、放棄したことと借金の可能性を知らせるのが望ましい対応です。
専門家へ早く相談した方がよいケース
次のいずれかに該当する場合は、早い段階で弁護士へ相談してください。
- 相続放棄の期限が迫っている
- すでに故人の預金を引き出した
- 家具や家電を売却した
- 管理会社へ支払いを約束した
- 借金額が大きい
- 連帯保証債務がある
- 高額な原状回復費を請求された
- 孤独死に関する損害賠償を請求された
- 相続人が複数いて意見が合わない
- 相続人が行方不明
- 全員が相続放棄する予定
- 3か月を過ぎている
- 故人の死亡を長期間知らなかった
司法書士へ相談しやすい内容
- 戸籍の収集
- 相続人の調査
- 相続放棄申述書の作成支援
- 家庭裁判所へ提出する書類の整理
- 相続財産清算人に関する手続きの相談
ただし、管理会社や債権者との交渉、紛争対応、高額請求への法的対応が必要な場合は、弁護士への相談が適しています。
まとめ
身内が孤独死し、借金がある可能性が判明した場合、最も大切なのは、慌てて借金を払ったり、部屋の物を処分したりしないことです。
相続放棄を検討する場合は、次の5点を優先してください。
- 相続放棄の3か月の期限を確認する
- 故人の財産を使用、売却、分配しない
- 管理会社や債権者へ支払いを約束しない
- 財産と借金を調べる
- 期限内に家庭裁判所へ申述する
財産調査が終わらない場合は、3か月を過ぎる前に熟慮期間の伸長を検討します。
また、相続放棄後は、自分の判断で賃貸借契約を解約したり、部屋の家財を処分したりしないことが重要です。
連帯保証人になっている場合、すでに財産を処分した場合、期限が迫っている場合、高額な請求を受けている場合は、親族だけで判断せず、早めに弁護士などの専門家へ相談してください。
注意事項
本記事は、相続放棄を検討する場合の一般的な流れを整理したものです。
相続放棄が認められるか、故人の財産を保管・処分した行為がどのように評価されるか、葬儀費用を故人の財産から支払えるか、賃貸住宅の費用を誰が負担するかは、具体的な事情によって異なります。
実際の判断については、管轄家庭裁判所、弁護士、司法書士などへ確認してください。

