配偶者を亡くしたとき|悲しみと向き合い、これからの生活を整えるために
夫や妻、長年生活をともにしてきたパートナーを亡くすことは、人生の中でも非常に大きな喪失の一つです。
失うのは、その人だけではありません。
毎日の会話。
一緒に食べる食事。
休日の過ごし方。
家事の分担。
経済的な支え。
そして、
「これからも二人で生きていく」
と思っていた未来。
配偶者との死別では、こうしたものが一度に変わることがあります。
だからこそ、すぐに以前の生活へ戻ろうとする必要はありません。
悲しみを抱えながら、新しくなった生活を少しずつつくり直していく。
それが、配偶者との死別におけるグリーフケアの大切な考え方です。
1|配偶者との死別は「一人を失う」だけではない
配偶者は、家族であると同時に、
・毎日話す相手
・生活をともにする相手
・相談する相手
・家事を分担する相手
・将来を考える相手
・経済的に支え合う相手
だった人も多いでしょう。
そのため配偶者を亡くすと、
「大切な人を失った悲しみ」と「これまでの生活を失った感覚」
が同時に起こることがあります。
例えば、
「食事を一人で食べるのがつらい」
「帰宅しても誰もいない」
「何かあったときに話す相手がいない」
「これから何を目標に生きればいいのか分からない」
と感じることがあります。
これは単純な寂しさだけではありません。
生活そのものが大きく変化したことによる喪失でもあります。
2|さまざまな感情が現れることがある
配偶者を亡くした後に感じることは、人によって異なります。
強い悲しみだけが現れるとは限りません。
悲しみ
「もう会えない」という現実に強い悲しみを感じることがあります。
寂しさ
長く一緒に生活していたほど、日常のささいな場面で不在を感じることがあります。
後悔
「あのとき、もっと話しておけばよかった」
「もっと病院へ連れて行けばよかった」
「最後にあんなことを言わなければよかった」
など、過去について考え続けることがあります。
怒り
病気や事故、医療関係者、自分自身、亡くなった配偶者に対して怒りを感じる場合もあります。
安堵
長期間の介護や闘病が続いていた場合には、悲しみと同時に、
「もう苦しまなくていい」
「介護が終わった」
という安堵を感じることがあります。
安堵を感じたことで自分を責める必要はありません。
人の感情は一つだけではなく、悲しみと安心が同時に存在することもあります。
3|葬儀中は悲しくなかった、ということもある
配偶者が亡くなると、遺された側には多くの対応が発生します。
病院や施設への対応。
葬儀社との打ち合わせ。
親族への連絡。
通夜。
葬儀。
火葬。
役所への届出。
年金や保険。
銀行。
相続。
名義変更。
こうしたことに追われ、
「亡くなった実感がない」
という状態になることがあります。
葬儀では比較的冷静だった人が、数週間後や数か月後に突然悲しくなることもあります。
厚生労働省の支援資料でも、配偶者との死別では悲嘆を抱えながら葬儀や各種手続きを進めなければならず、家庭ごとに必要な支援が異なることが示されています。
葬儀のときに泣かなかったからといって、悲しんでいないわけではありません。
4|一番つらいのは「普通の日常」かもしれない
配偶者との死別では、大きな行事よりも、何でもない日常で喪失を感じることがあります。
朝起きたとき。
二人分だった食卓。
テレビを見ているとき。
買い物へ行ったとき。
外出先から帰ったとき。
寝る前。
「これを話したら喜ぶだろうな」
と思った直後に、
「もう話せない」
と気付くことがあります。
こうした日常の小さな出来事の積み重ねが、配偶者との死別特有の寂しさにつながることがあります。
5|生活をすぐに完成させなくてもよい
死別後、
「これから一人で生きなければ」
と考え、すべてをすぐに整理しようとする人もいます。
しかし、生活を一度に立て直す必要はありません。
まずは、
・食事をとる
・睡眠を確保する
・薬を飲む
・必要な手続きをする
・家を最低限整える
といった基本的な生活を優先して構いません。
料理ができなければ、惣菜や宅配を利用する。
掃除ができなければ、後回しにする。
誰かに頼れることは頼る。
以前と同じ生活を完璧に続けることを目標にしなくてもよいのです。
6|大きな決断を急がない
配偶者を亡くした直後には、生活を大きく変えたくなることがあります。
例えば、
・自宅を売却する
・引っ越す
・仕事を辞める
・故人の物をすべて処分する
・高額な契約をする
・資産の運用方法を大きく変える
などです。
もちろん、生活上すぐに決めなければならないこともあります。
一方で、急ぐ必要がないことまで今すぐ決める必要はありません。
悲嘆の大きい時期には集中力や判断力が低下することもあります。
「今決めなければならないこと」と「半年後でもよいこと」を分ける。
それだけでも負担を減らせます。
7|故人の物をすぐに捨てなくてもよい
配偶者の服。
靴。
茶碗。
歯ブラシ。
本。
写真。
携帯電話。
日用品。
家の中には、故人が生きていた痕跡が数多く残ります。
それを見ることがつらく、
「全部片付けたい」
と感じる人もいます。
反対に、
「何一つ動かしたくない」
という人もいます。
どちらが正しいということではありません。
遺品整理には法的・相続上確認が必要な物もありますが、急いで処分する必要がない私物については、自分の気持ちに合わせて考えて構いません。
例えば、
「残す」
「処分する」
「まだ決めない」
の3つに分ける方法もあります。
「まだ決めない」という選択肢も、立派な選択です。
8|一人暮らしになった生活を整える
配偶者の死によって初めて一人暮らしになる人もいます。
特に長期間夫婦二人で暮らしてきた場合には、
「一人で生活する」
ということ自体が大きな変化になります。
これまで配偶者が担当していたことを確認してみましょう。
例えば、
・料理
・掃除
・洗濯
・買い物
・銀行管理
・保険
・公共料金
・自動車
・税金
・住宅管理
・パソコンやスマートフォン
などです。
すべてを自分でできるようになる必要はありません。
家族。
友人。
行政サービス。
家事代行。
宅配。
専門家。
民間サービス。
使えるものを組み合わせて、
「一人で暮らす」ではなく「一人でも支えを利用しながら暮らす」
という発想に変えていくことが大切です。
9|お金について確認する
配偶者との死別では、精神的な問題だけでなく家計も変化します。
収入が減る場合もあれば、一人分の生活費へ変わる部分もあります。
確認するものとして、
・遺族年金
・生命保険
・勤務先からの給付
・預貯金
・住宅ローン
・不動産
・相続財産
・毎月の固定費
などがあります。
ただし、制度の対象や受給条件は家族構成、年齢、加入していた年金などによって異なります。
「自分は対象外だろう」と自己判断せず、年金事務所、勤務先、保険会社などへ確認することが重要です。
遺族年金制度については制度改正もあるため、古い記事だけで判断せず、その時点の公的情報を確認してください。
10|子どもがいる場合
夫婦に子どもがいる場合には、自分自身が悲しんでいる中で、子どもの生活も支えなければならないことがあります。
そのため、
「自分がしっかりしなければ」
と思いすぎてしまうことがあります。
しかし、親も悲しんでよいのです。
また、親と子どもでは悲しみ方が違うことがあります。
子どもが普段通り遊んでいる。
友達と笑っている。
ゲームをしている。
だからといって、亡くなった親を悲しんでいないとは限りません。
子どもには子どもの悲嘆の表し方があります。
家族全員が同じように悲しむ必要はありません。
11|「自分だけ楽しんでよいのか」と思ったとき
死別からしばらくすると、
友人と食事へ行った。
旅行へ行った。
テレビを見て笑った。
趣味を楽しんだ。
という瞬間が出てくることがあります。
そのとき突然、
「自分だけ楽しんでいいのだろうか」
「故人に申し訳ない」
と感じることがあります。
しかし、笑うことや楽しむことは、故人を忘れたという意味ではありません。
悲しみと楽しさは同時に存在できます。
故人を大切に思うことと、自分の人生を生きることは両立します。
12|命日・誕生日・記念日に悲しみが戻ることがある
時間がたち、普段の生活が戻ってきても、
命日。
誕生日。
結婚記念日。
年末年始。
お盆。
家族旅行をしていた季節。
こうした日に強く故人を思い出すことがあります。
何年もたっているのに悲しくなることもあります。
これは必ずしも、
「元に戻ってしまった」
ということではありません。
大切な人との記憶が特定の日や場所と結び付いているため、自然と思い出すことがあります。
その日は予定を少なくする。
家族と過ごす。
墓参りへ行く。
故人の好きだったものを食べる。
あえて普通に過ごす。
どの過ごし方でも構いません。
13|故人を忘れる必要はない
かつては、
「故人への思いを断ち切ること」
が回復であるかのように考えられることもありました。
しかし、亡くなったからといって、長年築いてきた夫婦の関係までなくなるわけではありません。
写真を飾る。
故人の話をする。
思い出の場所へ行く。
故人の好きだった料理を作る。
大切にしていた物を使う。
心の中で故人に話しかける。
そうした方法で関係を保つ人もいます。
大切なのは、
「忘れられたか」ではなく、「自分の生活を続けられているか」
という視点です。
14|一人で抱え込まない
配偶者との死別は非常に個人的な経験であるため、
「誰にも分かってもらえない」
と感じることがあります。
無理に話す必要はありません。
しかし、話したいと思ったときに話せる相手がいることは大きな支えになります。
相談先には、
・家族
・友人
・同じ経験をした人
・遺族会
・グリーフケア団体
・自治体の相談窓口
・カウンセラー
・医療機関
・宗教者
などがあります。
同じ死別経験を持つ人と話すことで安心する人もいれば、一対一の相談の方が合う人もいます。
自分に合う方法を選んで構いません。
15|悲しみが長く続くとき
強い悲しみが長期間続き、生活へ大きな支障が出る場合があります。
国立精神・神経医療研究センターでは、親しい人との死別後、強い悲嘆が長期間続いて生活の質が低下する状態について研究が進められています。WHOのICD-11にも「遷延性悲嘆症」という診断カテゴリーがあります。
例えば、
・ほとんど眠れない状態が続く
・食事をほとんどとれない
・仕事や日常生活を続けられない
・人との関係を完全に避け続けている
・強い罪悪感や自責感が続いている
・アルコールなどへの依存が強くなった
・自分を傷つけたいと思う
・死にたいという気持ちが続く
といった場合には、
「自分が弱いから」
と考えず、医療機関や専門家への相談を検討してください。
悲しみの期間だけで判断するのではなく、
その悲しみによって現在の生活がどの程度損なわれているか
を見ることが重要です。
16|新しい人間関係をつくることに罪悪感を持たなくてよい
時間がたつと、
友人と出かける。
新しい趣味を始める。
地域活動へ参加する。
新しい友人ができる。
場合によっては、新しいパートナーとの関係を考えることもあるでしょう。
こうした変化に対して、
「故人を裏切っているのではないか」
と思う人もいます。
しかし、新しい人間関係を持つことと、亡くなった配偶者を大切に思うことは別の問題です。
いつ新しい生活へ進むべきかという期限もありません。
再婚する人もいます。
再婚しない人もいます。
一人で生きることを選ぶ人もいます。
どれが正しいということではありません。
これからの人生をどう生きるかは、遺された本人が決めてよいのです。
17|周囲の人ができること
配偶者を亡くした人に対して、
「元気を出して」
「早く立ち直らないと」
と励ますことが、必ずしも助けになるとは限りません。
むしろ、
「話したくなったら聞くよ」
「買い物に行くけど何か必要?」
「役所へ行くなら一緒に行こうか」
など、本人が必要としていることを具体的に支える方が役立つ場合があります。
また、死別直後だけでなく、
葬儀が終わった後。
四十九日が終わった後。
数か月後。
一周忌の前後。
などに連絡することも一つの支援です。
周囲の生活が通常へ戻った後にも、遺された人の悲しみは続いていることがあります。
18|よくある質問
Q. 配偶者を亡くして何もする気になれません
死別直後には、何もする気になれなかったり集中できなかったりすることがあります。
まずは食事、睡眠、服薬など最低限の生活を優先してください。
生活への大きな支障が長期間続いている場合には、専門家への相談も検討しましょう。
Q. 一人で食事をするのがつらいです
夫婦で長く食事をしていた人ほど、一人の食卓が喪失を強く感じる時間になることがあります。
毎食きちんと料理をする必要はありません。
家族や友人と食べる。
外食する。
宅配を利用する。
テレビやラジオをつける。
など、自分が少しでも過ごしやすい方法を試して構いません。
Q. 配偶者の遺品を処分できません
急いで処分する必要がない物であれば、すぐに決めなくても構いません。
「残す」「処分する」「保留する」に分ける方法もあります。
ただし、相続財産や重要書類については処分前に確認してください。
Q. 配偶者が亡くなってから笑うことに罪悪感があります
笑ったり楽しんだりすることは、故人を忘れたという意味ではありません。
悲しみながら楽しい時間を持つこともあります。
どちらか一方だけでなくても構いません。
Q. いつになったら立ち直れますか?
悲嘆に一律の期間はありません。
「何か月で元に戻る」と決めることもできません。
以前の自分へ完全に戻ることより、
新しくなった生活の中で、自分の毎日を少しずつつくっていくこと
を目標にした方がよいでしょう。
19|「一人になった」と「一人で生きなければならない」は違う
配偶者を亡くしたことで、住まいの中では一人になるかもしれません。
しかし、
一人になったことと、
すべてを一人で抱えなければならないことは、
同じではありません。
家族に頼る。
友人に頼る。
行政を頼る。
専門家を頼る。
民間サービスを利用する。
人と会いたくなったら人と会う。
一人でいたければ一人で過ごす。
その時々で必要なものを選んで構いません。
まとめ|二人で生きた時間を消さずに、自分の人生を続けていく
配偶者との死別によって失われるのは、大切な人だけではありません。
日常。
役割。
習慣。
安心感。
そして、二人で描いていた未来。
だからこそ、その悲しみが大きいのは不思議なことではありません。
無理に忘れる必要はありません。
無理に元気になる必要もありません。
そして、以前と同じ自分に戻る必要もありません。
故人との思い出を持ったまま、新しい生活を少しずつつくっていく。
今日一日を過ごす。
明日の食事を考える。
誰かと話す。
少し外へ出る。
また悲しくなったら休む。
その繰り返しの先に、新しい日常ができていきます。
■ このページの結論
配偶者を亡くした後のグリーフケアとは、故人を忘れて「元の生活へ戻る」ためのものではありません。
二人で生きてきた時間を大切にしながら、
「これからは自分がどう生きていくか」を少しずつつくっていくこと。
そして、その過程を一人だけで抱え込まなくてよいよう支えることです。
大切な人を思い続けながら、自分自身の人生も続けてよいのです。
