グリーフケアとは|大切な人を失った悲しみと、これからを生きるための支え
大切な人を亡くしたあと、悲しみ、寂しさ、後悔、怒り、何も感じられないような感覚など、さまざまな反応が現れることがあります。
こうした大きな喪失によって生じる悲嘆を「グリーフ(grief)」といいます。
そして、悲しみを無理に消そうとするのではなく、その人が自分なりのペースで喪失と向き合い、その後の生活を続けていけるよう支えることが「グリーフケア」です。
グリーフケアの目的は、「早く忘れること」でも「以前の自分に戻ること」でもありません。
大切な人を失ったという事実を抱えながら、その人自身の生活を少しずつ再構築していくこと。
その過程を支えるのがグリーフケアです。
1|グリーフとは何か
グリーフとは、大切な人や大切なものを失ったことによって生じる悲嘆や喪失反応を指します。
特に大きいのが、家族や親しい人との死別です。
ただし、グリーフは単純な「悲しい」という感情だけではありません。
死別後には、
・強い悲しみ
・寂しさ
・怒り
・後悔
・罪悪感
・不安
・無気力
・故人への強い思慕
・人に会いたくない気持ち
・眠れない
・食欲がなくなる
・集中できない
など、心と身体の両方にさまざまな反応が現れることがあります。
WHOも、悲嘆は喪失に対する自然な反応であり、その表れ方には大きな個人差があるとしています。多くの場合、時間とともに反応は弱まっていきますが、悲嘆が長く続き、日常生活へ大きな影響を及ぼす場合もあります。
2|グリーフケアとは
グリーフケアとは、大切な人を亡くした人の悲しみや苦しみに寄り添い、その人が喪失後の生活を続けていけるよう支援することです。
特別な治療だけを意味する言葉ではありません。
家族や友人が話を聞くこともあれば、遺族会などで同じ経験をした人と話すこともあります。
必要に応じて、カウンセラー、医師、心理職、宗教者などの専門家から支援を受ける場合もあります。
重要なのは、
「悲しまないようにする」のではなく、「悲しんでもよい場所をつくる」
という考え方です。
3|悲しみ方は人によって違う
死別した人が必ず泣くとは限りません。
声を上げて泣く人もいれば、ほとんど涙が出ない人もいます。
葬儀の最中は冷静だったのに、数週間後になって突然悲しくなる人もいます。
すぐ仕事へ戻れる人もいれば、しばらく何も手につかなくなる人もいます。
どれか一つが「正しい悲しみ方」なのではありません。
WHOの資料でも、悲嘆の感じ方や表現方法には個人差があり、強い感情を表す人もいれば表さない人もいるとされています。
家族であっても悲しみ方は違います。
その違いを、
「冷たい」
「悲しんでいない」
「いつまでも引きずっている」
と判断しないことも、グリーフケアでは大切です。
4|悲しみには決まった順番があるわけではない
死別について、
「最初は否定し、その後に怒りが生まれ、最後には受け入れる」
というような段階で説明されることがあります。
しかし、実際の悲嘆が必ず一定の順番で進むわけではありません。
今日は落ち着いていても、翌日には強く悲しくなることがあります。
数か月間比較的穏やかに過ごしていたのに、命日や誕生日、思い出の場所を訪れたことで、突然悲しみが戻ってくることもあります。
悲しみは一直線に消えていくものではありません。
行ったり来たりしながら、少しずつ生活の中に収まっていく。
そのように考えた方が、実際のグリーフに近いといえます。
5|「立ち直る」ことだけが目的ではない
グリーフケアという言葉から、
「悲しみから立ち直るための方法」
と考える人もいるかもしれません。
しかし、大切な人との関係まで消す必要はありません。
写真を見る。
思い出を話す。
故人が好きだった音楽を聴く。
命日に思い出す。
故人から教えてもらったことを大切にする。
このように、亡くなった人との関係は「存在しなくなる」のではなく、形を変えながら残っていく場合があります。
忘れることをゴールにするのではなく、
故人との思い出を持ちながら、自分の生活も続けていく。
これもグリーフと向き合う一つの形です。
6|死別直後は「悲しむ時間すらない」ことがある
家族が亡くなると、遺族には多くのことが一度に起こります。
死亡確認。
病院や施設からの搬送。
葬儀社との打ち合わせ。
通夜・葬儀。
火葬。
納骨。
役所への届出。
銀行口座や保険の手続き。
相続。
遺品整理。
さまざまな対応に追われます。
そのため、亡くなった直後には悲しみを実感できないこともあります。
周囲に人が多い葬儀中よりも、すべてが終わって自宅へ戻ったあとに、突然大きな喪失感がやってくることもあります。
葬儀が終わることと、悲しみが終わることは同じではありません。
むしろ、葬儀後からグリーフケアが必要になる人もいます。
7|グリーフケアで大切な6つのこと
グリーフケアには、すべての人に共通する一つの正解があるわけではありません。
それでも、基本となる考え方があります。
① 悲しみを無理に抑えない
悲しいときに無理に明るく振る舞う必要はありません。
泣きたいときには泣く。
話したくないときには話さない。
その人自身の感情を尊重することが大切です。
② 話したいときに話せる場所を持つ
故人について何度も同じ話をすることがあります。
それ自体がおかしいことではありません。
「またその話?」
と遮るのではなく、話したいときに話せる相手や場所があることが支えになります。
③ 一人になりたい時間も尊重する
グリーフケアというと「誰かが寄り添うこと」と考えがちですが、人に会いたくない時間が必要な人もいます。
支える側が無理に話をさせないことも重要です。
④ 身体の状態にも目を向ける
悲嘆は心だけの問題ではありません。
睡眠、食欲、疲労など身体にも影響が出ることがあります。
食事をとる。
眠れる環境をつくる。
少し外へ出る。
生活の基本を保つこともグリーフケアの一部です。
⑤ 大きな決断を急がない
死別直後は、判断力や集中力が低下していることがあります。
遺品をすべて処分する。
家を売却する。
引っ越す。
仕事を辞める。
こうした大きな決断について、急ぐ必要がないものは時間を置いて考える方法もあります。
⑥ 必要なら第三者を頼る
家族だけですべてを支える必要はありません。
友人、医療機関、心理職、自治体、遺族会など、第三者を頼ることも選択肢です。
8|周囲の人にできるグリーフケア
遺族を前にすると、
「何か励まさなければ」
と思ってしまうことがあります。
しかし、必ずしも励ましが必要とは限りません。
大切なのは、その人の悲しみを評価したり変えようとしたりせず、必要なときにそばにいられることです。
例えば、
「話したくなったら聞くよ」
「買い物に行くけれど、必要なものはある?」
「食事を持っていこうか?」
など、具体的な形で支えることがあります。
言葉よりも、食事を届ける、買い物を手伝う、役所の手続きに同行するなど、日常生活を支える行動の方が助けになる場合もあります。
9|避けた方がよい言葉
善意から出た言葉でも、遺族を苦しめることがあります。
例えば、
「早く元気になって」
「いつまでも悲しんでいてはいけない」
「時間が解決してくれる」
「あなたよりつらい人もいる」
「もう十分生きたんだから」
「前向きにならないと」
といった言葉です。
励ますことよりも、
その人が今どのように感じているのかを尊重すること
を優先した方がよいでしょう。
10|専門的な支援を検討することも大切
悲嘆そのものは、病気ではありません。
WHOも、死別は人生で起こり得る出来事であり、多くの人では精神疾患に至らないとしています。一方で、一部では悲嘆が長期間続き、生活機能に大きな影響を及ぼす場合があります。
国立精神・神経医療研究センターでも、死別後の悲嘆が長期間続く人について研究が進められています。
例えば、
・長期間ほとんど眠れない
・食事がほとんどとれない
・仕事や学校など日常生活を続けることが難しい
・強い罪悪感や自責感が続いている
・アルコールなどに強く依存するようになった
・自分を傷つけたい気持ちがある
・死にたいという気持ちが続いている
といった場合には、一人で抱え込まず、医療機関や心理職など専門家への相談を検討することが重要です。
緊急性がある場合には、地域の救急・緊急相談窓口などへ速やかにつながる必要があります。
11|グリーフケアを受けられる場所
グリーフケアにはさまざまな形があります。
家族・友人
最も身近な支援です。
話を聞いてもらったり、日常生活を手伝ってもらったりすることが支えになる場合があります。
遺族会・自助グループ
同じような死別を経験した人と気持ちや経験を共有する場です。
「自分だけではない」と感じられることが支えになる人もいます。
一方で、集団で話すことが合わない人もいるため、無理に参加する必要はありません。
カウンセリング
心理職などと一対一で話しながら、悲嘆や生活上の問題について整理していく方法です。
医療機関
睡眠や食事、強い抑うつ状態など、心身への影響が大きい場合には、医療機関への相談が必要になることがあります。
宗教者
寺院、教会などの宗教者が、葬送だけでなく死別後の相談や心の支援を行っている場合もあります。
12|グリーフケアに期限はない
「もう半年たったから」
「一年たったから」
と、悲しみに期限を設定する必要はありません。
亡くなった人との関係、亡くなり方、家族構成、その後の生活環境などによって、悲嘆の形は異なります。
命日。
誕生日。
結婚記念日。
年末年始。
家族の行事。
何年経っていても、ふと悲しみが戻ってくることがあります。
それは必ずしも「振り出しに戻った」ということではありません。
悲しみを感じながらも生活を続けられるようになっていく。
それも一つの変化です。
13|よくある質問
Q. いつまで悲しんでいてもいいのでしょうか?
悲しみに一律の期限はありません。
人によって死別の受け止め方や時間の経過は違います。
ただし、日常生活を維持することが長期間難しい場合などには、専門家への相談も検討してください。
Q. 涙が出ません。冷たい人間なのでしょうか?
泣くかどうかだけで悲しみの大きさを判断することはできません。
悲嘆の表れ方には個人差があります。
Q. 故人の物を捨てられません。
急いで処分する必要がないものなら、無理に捨てる必要はありません。
遺品整理もグリーフの一部になることがあります。
残すもの、手放すものを時間をかけて考えてもよいでしょう。
Q. 葬儀が終わってから急に悲しくなりました。
珍しいことではありません。
亡くなった直後は葬儀や手続きに追われ、落ち着いてから喪失を実感する人もいます。
Q. 家族と悲しみ方が違います。
同じ人を亡くした家族でも、関係性や経験はそれぞれ違います。
悲しみ方が違うことを前提として、お互いの反応を尊重することが大切です。
14|葬送の先にも、人の生活は続いていく
人が亡くなると、
死亡確認をして、
葬儀を行い、
火葬し、
納骨し、
相続や死後の手続きを進めます。
法律上、社会生活上の手続きには「終わり」があります。
しかし、人の悲しみには明確な終了日はありません。
葬儀が終わっても、
納骨が終わっても、
相続が終わっても、
遺された人の人生は続きます。
だからこそ、葬送を考えるときには、
「亡くなった人をどう送るか」だけではなく、「遺された人がその後をどう生きるか」
まで考える必要があります。
それがグリーフケアという考え方の重要な部分です。
まとめ|悲しみを消すのではなく、悲しみとともに生きられるようにする
グリーフケアは、悲しみを忘れさせるためのものではありません。
大切な人を亡くしたという事実そのものを、なかったことにはできません。
そして、無理に「前向き」になる必要もありません。
悲しい日は悲しむ。
思い出したい日は思い出す。
人と話したいときには話す。
一人でいたいときには一人になる。
必要になったら誰かの助けを借りる。
そうしながら、少しずつ自分の日常を取り戻していきます。
グリーフケアとは、悲しみから人を急いで連れ出すことではありません。
その人が悲しみを抱えたままでも、再び自分の人生を歩いていけるよう支えることです。
■ このページの結論
大切な人を忘れることが、回復ではありません。
故人との思い出を持ちながら、自分自身の生活も続けていく。
その人なりの時間と方法を尊重し、必要なときに支えること。
それがグリーフケアです。

